■帚木(ははきぎ)

 五月雨の続く夜、17才になった源氏の君(げんじのきみ)が御所で物忌み(ものいみ)していると、頭の中将(とうのちゅうじょう)が訪ねてきた。頭の中将は左大臣家の嫡男で、源氏の君の妻--葵の上(あおいのうえ)の兄である。源氏の君は、プレイボーイとして名高い頭の中将が、源氏の君が女性たちから貰った手紙を見たがるので、差し障りのない手紙を選んで彼に見せた。普段はとりすまして女性に興味がない素振りをしている源氏の君が、実はたくさんの手紙を受け取っているので、頭の中将はそれをからかう。源氏の君は負けじと言い返し、これを切っ掛けに二人は女性について語りはじめた。すると、丁度タイミングよく左馬の上(さまのかみ)と藤式部の丞(とうしきぶのじょう)が物忌み場所へ顔を出した。彼らも又プレーボーイとして名高い公達(きんだち)である。頭の中将は、さっそく弁のたつ彼らを捕まえて、4人は女性談義へと突入していく。

 先ず最初に語り始めたのは左馬の上だった。彼は女性を上流階級、中流階級、下流階級に別けた場合の中流階級について定義し、女性の一般論、教養のある女、恋人と妻にする女との違い、妻選びの難しさなどを自分の体験談とともに披露した。続いて話したのは頭の中将である。彼は、女の子までもうけた間柄である内縁の妻の話をした。内縁の妻は彼の正妻からの迫害にあい、現在は行方不明になっていると言う。頭の中将は、ひとしきり語り終わると、今度は藤式部の丞へ次の話題を促した。藤式部の丞は話題に困って、文章生(もんじょうのしょう)の頃に出会った学者の娘の話しをするが、内容がこっけいであったため、源氏の君たちから作り話ではないかとされてしまった。このようにして続いた女性談義は、どこに結論が行き着くという事も無く終わり、最終的にはとりとめのない話になって、源氏の君たちは夜を明かすのだった。

 品定めの一夜が明けた翌日、源氏の君は御無沙汰気味の正妻--葵の上を訪ねたが、夜になって左大臣家は宮中から移動して来た場合は、方塞がりになっていると知らされる。源氏の君は昨夜の品定めで疲れている事もあり、そのまま寝てしまおうとするが、中川のあたりにある紀伊の守(きいのかみ)の屋敷へ方違えするよう勧められた。出かけて行くと、紀伊の守の屋敷には、紀伊の守の父--伊予の介(いよのすけ)の若い後妻--空蝉(うつせみ)が居合わせていた。空蝉は品定めで話題になった中流階級の女である。源氏の君はにわかに興味がわいて、空蝉の元へ忍び込み、強引に一夜を共にするのだった。

 後日になっても空蝉の事が頭から離れない源氏の君は、空蝉の弟--小君(こぎみ)を手許へ引き取って、姉に手紙を届けさせるなどしたが、空蝉の心は頑で、一向に源氏の君へなびかない。源氏の君は紀伊の守の中川邸へ足を運ぶが、自分の身分や立場を知る空蝉は、源氏の君を避け、けっして会おうとはしなかった。近づくと消えてしまうという帚木のような空蝉を、源氏の君は忘れる事ができそうになかった。


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