■空蝉(うつせみ)

 源氏の君は空蝉(うつせみ)の事が忘れられず、中川にある紀伊の守(きいのかみ)の屋敷へ何かと理由をつけて通っていたが、彼女は一度も会ってくれない。しかし、ある日、源氏の君は空蝉に会えるかもしれないチャンスが巡ってくる。彼女の夫、紀伊の守が任国へ出向く事になったのだ。

 主人が留守の屋敷には、女と子供しか残っていない。源氏の君は、空蝉の弟--小君(こぎみ)の手引きによって、紀伊の守の屋敷へ忍び込んだ。源氏の君がこっそり部屋を覗くと、空蝉と継娘の軒端の荻(のきばのおぎ)が碁を打っていた。軒端の荻は色が白くムチムチしていて、なかなか華やかな娘だった。明るい所で始めて見た空蝉は、痩せた感じの小さな女性で軒端の荻より器量が劣っていたが、その物腰などがしっとりと落ち着き全てに趣がある様子なので、源氏の君はよりいっそう空蝉に心を奪われた。

 夜もふけて、人々が寝静まったのを見計らい、源氏の君は空蝉の部屋へ忍んで行く。だが、人の気配を感じ取った空蝉は、小桂(こうちぎ)を一枚残し素早く部屋を抜け出した。そうと知らない源氏の君は、部屋で寝ている女性を抱き締めるが、様子が違うことに気がついた。彼が手を出したのは、空蝉の部屋へ泊まっていた軒端の荻だったのである。今さら後にも引けず、源氏の君は「最近よくこの屋敷を訪ねていたのは、貴方に惹かれていたからだ」と軒端の荻を言いくるめ、二人は一夜をともにした。軒端の荻はおっとりしており、騒ぎ立てもしないので、彼女は彼女で可愛い娘だと源氏の君は思うのだった。

 軒端の荻との情事が終わり、源氏の君は空蝉の残した小桂を手に外へ出た所、屋敷に使える老婆に見つかってしまう。しかし、相手が源氏の君を背の高い同僚と間違えてくれたお陰で助かった。 自宅へ戻った源氏の君は、空蝉に対する心の内を歌にして、小君の手で届けさせるが、空蝉から来た返事は、人妻なので貴方の気持ちには答えられない悲しみを歌った和歌だった。

 一方、軒端の荻は、誰にも打ち明けられない秘密を抱えてもんもんとしていたが、あれこれ悩む性格ではないので、特別な行動はおこさない。ただ、小君が源氏の君の自宅と中川にある屋敷を慌ただしく行き来している様子を見ると、源氏の君から手紙一つ届かない現状に、釈然としないようすであった。


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